遺言について
2018年2月23日 金曜日
中国法における遺言
前回、国際相続における遺言の考え方についてブログを記載しました。
http://www.am-lawoffice.jp/blog/2018/02/post-75-1425480.html
今回は、中国に財産がある場合、遺言書をどう描くか、を具体的に見ていきたいと思います。
日本では、遺言の種類は、自筆証書遺言、公正証書遺言、秘密証書遺言があり、死亡が迫った危急時にこれらの要式性を緩和した危急時遺言があります。
これに対し、中国では、公証証書遺言、自筆証書遺言、代筆証書遺言、録音遺言、口頭遺言の5種類が認められています(中国相続法17条各項)。
このうち、口頭遺言は実質的には日本の危急時遺言と同様の機能を有しているようです。また、日本とは異なり、録音遺言が認められていますが、利用例は少ないようです。
中国の公証証書遺言は、公証人2名の面前で、遺言者が作成日を自署し、署名を行います。日本と異なり、押印はありません。
後日、公証証書遺言が発行されます。
日本では公正証書で遺言書を作成しますが、中国の公証証書遺言では、遺言書自体は自筆証書遺言でもよいし、代筆証書遺言でもよいということです。
また、中国では日本と異なり、証人は不要です。公証証書遺言は、公証証書遺言でしか取消し、変更ができません(中国相続法20条3項)。
中国の自筆証書遺言は、全文を自署し、署名の上、日付も記載します。日本と異なり、中国相続法には遺言書の訂正の規定はありません。訂正の必要があれば、書き直しがよいでしょう。
最近、中国に財産がある方から遺言の相談がありました。
中国にある不動産を相続させるについては、中国相続法に従った遺言を残しておくことが必要です。
中国本土に行って手続ができるのであれば公証証書遺言を利用し、そのような余裕が無ければ、自筆証書遺言を作成することになるでしょう。
最後に、中国相続法には日本の遺留分の制度はありません。
しかし、中国相続法では養老育幼という独特の扶養義務の観念が重視されており、労働能力が乏しい相続人及び生活収入の無い相続人に対して、必要な分の遺産を留保しなければなりません(中国相続法19条)。
お問い合わせはこちらから
詳細につきましては、松井・森岡法律事務所まで(担当 松井)
電話 03-3261-7125
FAX 03-3261-7126
http://www.am-lawoffice.jp/blog/2018/02/post-75-1425480.html
今回は、中国に財産がある場合、遺言書をどう描くか、を具体的に見ていきたいと思います。
日本では、遺言の種類は、自筆証書遺言、公正証書遺言、秘密証書遺言があり、死亡が迫った危急時にこれらの要式性を緩和した危急時遺言があります。
これに対し、中国では、公証証書遺言、自筆証書遺言、代筆証書遺言、録音遺言、口頭遺言の5種類が認められています(中国相続法17条各項)。
このうち、口頭遺言は実質的には日本の危急時遺言と同様の機能を有しているようです。また、日本とは異なり、録音遺言が認められていますが、利用例は少ないようです。
中国の公証証書遺言は、公証人2名の面前で、遺言者が作成日を自署し、署名を行います。日本と異なり、押印はありません。
後日、公証証書遺言が発行されます。
日本では公正証書で遺言書を作成しますが、中国の公証証書遺言では、遺言書自体は自筆証書遺言でもよいし、代筆証書遺言でもよいということです。
また、中国では日本と異なり、証人は不要です。公証証書遺言は、公証証書遺言でしか取消し、変更ができません(中国相続法20条3項)。
中国の自筆証書遺言は、全文を自署し、署名の上、日付も記載します。日本と異なり、中国相続法には遺言書の訂正の規定はありません。訂正の必要があれば、書き直しがよいでしょう。
最近、中国に財産がある方から遺言の相談がありました。
中国にある不動産を相続させるについては、中国相続法に従った遺言を残しておくことが必要です。
中国本土に行って手続ができるのであれば公証証書遺言を利用し、そのような余裕が無ければ、自筆証書遺言を作成することになるでしょう。
最後に、中国相続法には日本の遺留分の制度はありません。
しかし、中国相続法では養老育幼という独特の扶養義務の観念が重視されており、労働能力が乏しい相続人及び生活収入の無い相続人に対して、必要な分の遺産を留保しなければなりません(中国相続法19条)。
お問い合わせはこちらから
詳細につきましては、松井・森岡法律事務所まで(担当 松井)
電話 03-3261-7125
FAX 03-3261-7126
投稿者 松井・森岡法律事務所 | 記事URL
2018年2月16日 金曜日
国際相続における遺言
これまで、遺言書についてはこのブログで多くの記事を掲載してきました。
http://www.am-lawoffice.jp/blog/igon/
本日のブログでは、国際相続と遺言の関係について、整理します。
国外にも資産がある方について、遺言はどのように準備しておくべきかという点について考えていきたいと思います。
まず、最初の問題として、特に国際相続の場合、どの国の法律で遺言の有効性を判断するのか、遺言の方式の準拠法という問題があります。
遺言の方式の準拠法に関しては、その名のとおり「遺言の方式の準拠法に関する法律」というのがあります。
日本では、遺言とくに自筆証書遺言については自署であることなど厳格な要式が求められます。
しかし、遺言の方式の準拠法に関する法律は、遺言者の意思を尊重するため、次のいずれかの法律に従った場合は遺言の方式としての有効性を認めています(遺言の方式の準拠法に関する法律第2条)。
・行為地法
・遺言者が遺言の成立または死亡の当時国籍を有した国の法
・遺言者が遺言の成立または死亡の当時住所を有した国の法
・遺言者が遺言の成立または死亡の当時常居所を有した国の法
・不動産に関する遺言について、その不動産の所在地法
これによれば、上記の関係のある国の遺言の法律に従って作成すればその国の法律に従った有効性が認められることになります。
例えば、日本在住のスペイン国籍の方が18歳で遺言書を作成した場合、スペイン本国法では未成年者の遺言は無効とされますが、日本の民法ではその遺言は有効になります。
また、日本在住のドイツ人夫婦が共同で1通の遺言を作成した場合、日本の民法では共同遺言は無効になりますが、ドイツ本国法では夫婦の共同遺言は有効になります。
ただ、有効であれば良かったという単純な話ではありません。
実際には、諸外国は日本とは検認制度や遺言の実現の仕方や、裁判所や公共機関において取扱いが異なります。
日本で作成した有効な遺言書を、例えば米国のある州の裁判所に持って行ったとしても、その内容が実現出来ない可能性があります。
従って、実務的な対応としては、日本の国内の財産は日本の遺言書で対応し、国外の財産はその国で遺言を実現しやすいようにその国に応じた方式の遺言を書き分けるべきです。
ただし、いくつかの遺言書の間で矛盾が無いよう、つまり撤回・取り消したと言われることが無いよう注意が必要です。
お問い合わせはこちらから
詳細につきましては、松井・森岡法律事務所まで(担当 松井)
電話 03-3261-7125
FAX 03-3261-7126
http://www.am-lawoffice.jp/blog/igon/
本日のブログでは、国際相続と遺言の関係について、整理します。
国外にも資産がある方について、遺言はどのように準備しておくべきかという点について考えていきたいと思います。
まず、最初の問題として、特に国際相続の場合、どの国の法律で遺言の有効性を判断するのか、遺言の方式の準拠法という問題があります。
遺言の方式の準拠法に関しては、その名のとおり「遺言の方式の準拠法に関する法律」というのがあります。
日本では、遺言とくに自筆証書遺言については自署であることなど厳格な要式が求められます。
しかし、遺言の方式の準拠法に関する法律は、遺言者の意思を尊重するため、次のいずれかの法律に従った場合は遺言の方式としての有効性を認めています(遺言の方式の準拠法に関する法律第2条)。
・行為地法
・遺言者が遺言の成立または死亡の当時国籍を有した国の法
・遺言者が遺言の成立または死亡の当時住所を有した国の法
・遺言者が遺言の成立または死亡の当時常居所を有した国の法
・不動産に関する遺言について、その不動産の所在地法
これによれば、上記の関係のある国の遺言の法律に従って作成すればその国の法律に従った有効性が認められることになります。
例えば、日本在住のスペイン国籍の方が18歳で遺言書を作成した場合、スペイン本国法では未成年者の遺言は無効とされますが、日本の民法ではその遺言は有効になります。
また、日本在住のドイツ人夫婦が共同で1通の遺言を作成した場合、日本の民法では共同遺言は無効になりますが、ドイツ本国法では夫婦の共同遺言は有効になります。
ただ、有効であれば良かったという単純な話ではありません。
実際には、諸外国は日本とは検認制度や遺言の実現の仕方や、裁判所や公共機関において取扱いが異なります。
日本で作成した有効な遺言書を、例えば米国のある州の裁判所に持って行ったとしても、その内容が実現出来ない可能性があります。
従って、実務的な対応としては、日本の国内の財産は日本の遺言書で対応し、国外の財産はその国で遺言を実現しやすいようにその国に応じた方式の遺言を書き分けるべきです。
ただし、いくつかの遺言書の間で矛盾が無いよう、つまり撤回・取り消したと言われることが無いよう注意が必要です。
お問い合わせはこちらから
詳細につきましては、松井・森岡法律事務所まで(担当 松井)
電話 03-3261-7125
FAX 03-3261-7126
投稿者 松井・森岡法律事務所 | 記事URL
2016年8月10日 水曜日
事業承継と遺留分対策について
今回のブログは事業承継と遺留分対策について記載します。
被相続人が会社を経営していた場合、会社の相続は会社の株式の相続という形でなされることになります。
被相続人が特定の相続人や第三者に会社の経営を引き継いでほしいと考えて、仮に遺言で株式を引き継がせることを記しても、相続人の遺留分を侵害する限度でその遺言が無効となる可能性があります。
その場合、株式が遺留分減殺請求の対象となって他の相続人にも分散してしまい、会社の経営が後継者の思うようにいかないケースが考えれらます。
前回のブログでも、自社株式が遺留分減殺請求の対象となり、各相続人に分散してしまうケースを見ました。
http://www.am-lawoffice.jp/blog/2016/08/post-60-1322287.html
小規模事業者をふくめた中小企業は日本全国に380万社あるとされ、全企業数の99.7%を占めます(中小企業庁ホームページ)。
また、その経営者の高齢化も目立ってきており、中小企業の円滑な事業承継は喫緊の課題となっています。
このようなケースを想定した制度としては、被相続人の生前に遺留分権利者が遺留分放棄の申立を家庭裁判所に行うことが考えられます。
しかし、遺留分放棄のデメリットは遺留分権利者に自発的に申立てを行ってもらう必要があり、株式以外にも財産がある場合や親族関係がこじれている場合などは相続人が自ら遺留分を放棄する内容の申立をすることは期待できないでしょう。
そこで、中小企業の事業承継を円滑に進めるために、平成21年に中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律が定められました。
対象会社は、3年間継続して事業を行ってきたことが必要であり、資本金と従業員の要件があります。株式会社のみではなく、合同会社、合名会社、合資会社も含まれます。
ただし、上場会社や、医療法人・社会福祉法人、外国法人は対象会社に含まれません。
上記の遺留分対策としてできることは下記の2つです。
まず、自社株式の価額を遺留分算定の基礎財産に参入しないことができます。これを「除外合意」といいます。
後継者が旧代表者の生前に株式の贈与を受けると、民法上の特別受益として遺留分算定の基礎財産に算入され、遺留分減殺の対象となります。
これを除外合意の対象とすれば、遺留分減殺請求の対象とならなくなります。
次に、遺留分算定の基礎財産に算入すべき金額をあらかじめ固定することができます。これを「固定合意」といいます。
後継者が旧代表者の贈与により取得した株式を遺留分算定の基礎財産に算入する場合の価額は相続開始時の評価額です。
例えば、贈与時に5000万円であった株式の価値が相続開始時には2億円に上昇していた場合は、上昇後の2億円が遺留分算定の基礎財産に算入されることになります。
しかし、これでは後継者が企業の業績向上に努めた結果、株価の評価が上がってしまい、遺留分の負担がより大きくなるという結果になってしまいます。
そこで、株式を固定合意の対象とすれば、遺留分に算定すべき株式の価額を5000万円にすることができ、上昇分を算入しなくて済みます。
また、付随合意として上記の除外合意と固定合意とあわせて合意できる事項があります。
後継者が旧代表者から株式以外に贈与を受けた財産についても遺留分算定の基礎財産に算入しないことを合意できます。例えば、事業用に供している不動産や現金などです。
また、非後継者が旧代表者から贈与をうけて取得した財産についても遺留分算定の基礎財産に算入しないことの合意ができます。これは、非後継者と後継者の衡平を図るための措置です。
この除外合意と固定合意はいずれか一方もできますし、双方の合意を使うことも可能です。
また付随合意はこれらに組み合わせて用いるものです。
そして、手続や問題点については次回のブログで述べたいと思います。
お問い合わせはこちらから
詳細につきましては、松井・森岡法律事務所まで(担当 松井)
電話 03-3261-7125
FAX 03-3261-7126
被相続人が会社を経営していた場合、会社の相続は会社の株式の相続という形でなされることになります。
被相続人が特定の相続人や第三者に会社の経営を引き継いでほしいと考えて、仮に遺言で株式を引き継がせることを記しても、相続人の遺留分を侵害する限度でその遺言が無効となる可能性があります。
その場合、株式が遺留分減殺請求の対象となって他の相続人にも分散してしまい、会社の経営が後継者の思うようにいかないケースが考えれらます。
前回のブログでも、自社株式が遺留分減殺請求の対象となり、各相続人に分散してしまうケースを見ました。
http://www.am-lawoffice.jp/blog/2016/08/post-60-1322287.html
小規模事業者をふくめた中小企業は日本全国に380万社あるとされ、全企業数の99.7%を占めます(中小企業庁ホームページ)。
また、その経営者の高齢化も目立ってきており、中小企業の円滑な事業承継は喫緊の課題となっています。
このようなケースを想定した制度としては、被相続人の生前に遺留分権利者が遺留分放棄の申立を家庭裁判所に行うことが考えられます。
しかし、遺留分放棄のデメリットは遺留分権利者に自発的に申立てを行ってもらう必要があり、株式以外にも財産がある場合や親族関係がこじれている場合などは相続人が自ら遺留分を放棄する内容の申立をすることは期待できないでしょう。
そこで、中小企業の事業承継を円滑に進めるために、平成21年に中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律が定められました。
対象会社は、3年間継続して事業を行ってきたことが必要であり、資本金と従業員の要件があります。株式会社のみではなく、合同会社、合名会社、合資会社も含まれます。
ただし、上場会社や、医療法人・社会福祉法人、外国法人は対象会社に含まれません。
上記の遺留分対策としてできることは下記の2つです。
まず、自社株式の価額を遺留分算定の基礎財産に参入しないことができます。これを「除外合意」といいます。
後継者が旧代表者の生前に株式の贈与を受けると、民法上の特別受益として遺留分算定の基礎財産に算入され、遺留分減殺の対象となります。
これを除外合意の対象とすれば、遺留分減殺請求の対象とならなくなります。
次に、遺留分算定の基礎財産に算入すべき金額をあらかじめ固定することができます。これを「固定合意」といいます。
後継者が旧代表者の贈与により取得した株式を遺留分算定の基礎財産に算入する場合の価額は相続開始時の評価額です。
例えば、贈与時に5000万円であった株式の価値が相続開始時には2億円に上昇していた場合は、上昇後の2億円が遺留分算定の基礎財産に算入されることになります。
しかし、これでは後継者が企業の業績向上に努めた結果、株価の評価が上がってしまい、遺留分の負担がより大きくなるという結果になってしまいます。
そこで、株式を固定合意の対象とすれば、遺留分に算定すべき株式の価額を5000万円にすることができ、上昇分を算入しなくて済みます。
また、付随合意として上記の除外合意と固定合意とあわせて合意できる事項があります。
後継者が旧代表者から株式以外に贈与を受けた財産についても遺留分算定の基礎財産に算入しないことを合意できます。例えば、事業用に供している不動産や現金などです。
また、非後継者が旧代表者から贈与をうけて取得した財産についても遺留分算定の基礎財産に算入しないことの合意ができます。これは、非後継者と後継者の衡平を図るための措置です。
この除外合意と固定合意はいずれか一方もできますし、双方の合意を使うことも可能です。
また付随合意はこれらに組み合わせて用いるものです。
そして、手続や問題点については次回のブログで述べたいと思います。
お問い合わせはこちらから
詳細につきましては、松井・森岡法律事務所まで(担当 松井)
電話 03-3261-7125
FAX 03-3261-7126
投稿者 松井・森岡法律事務所 | 記事URL
2016年8月 8日 月曜日
遺留分について
今回は、遺留分について解説します。
よく、「遺言を書くときには遺留分に気をつけましょう」とか、「遺留分減殺請求は1年間の期間制限があります」という話をご存知の方も多いと思います。
遺留分が相続人に残された最低限の権利であるという理解は、一般の方にも浸透しているようです。
「遺留分」は、最低限度の相続人間の公平を確保するために、兄弟姉妹及びその子以外の相続人に保障された最低限の相続の権利のことをいいます。
被相続人による財産の処分によって、遺留分を侵害された相続人は、遺留分の額以上の財産を取得した相続人に対して、財産の返還を請求することができます(民法1031条)。
これが「遺留分減殺請求権」です。
遺留分の額の算出方法としては、遺留分算定基礎財産の2分の1(相続人が直系尊属だけの場合は3分の1。)が、相続人全体にとっての遺留分の額です(民法1028条)。
これに個々の相続人の法定相続分を乗じることによって、個々の相続人が有する遺留分の額を算出します(民法第1044条で準用する同法第900条)。
遺留分算定の基礎財産の価額は、以下の数式で求めます。
【遺留分算定基礎財産】
=「被相続人が相続開始時(死亡時)に有していた財産」+「相続前1年以内の生前贈与」+「特別受益」-「負債」
遺留分減殺請求の実例を具体的なケースで見てみましょう。
[事例]
相続人:配偶者、子2人(長男・次男)
被相続人の相続開始時の財産:不動産5000万円、預金2000万円
後継者である長男に対し、死亡1年前に贈与:自社株式2億円
負債:3000万円
[遺留分算定基礎財産の価額]
不動産5000万円+預金2000万円+自社株式2億円-負債3000万円=2億4000万円
[相続人全体にとっての遺留分の額]
2億4000万円×1/2=1億2000万円
[個々の相続人の遺留分の額]
配偶者=1億2000万円×1/2=6000万円
子2人=1億2000万円×1/4=各3000万円
このケースで、被相続人が遺言で、配偶者に不動産5000万円を遺贈し、長男に預金全額2000万円を遺贈した場合を想定します。
配偶者は1000万円(遺留分額6000万円-実際の相続額5000万円)の遺留分侵害を受け、次男は指定された相続分がありませんから遺留分額3000万円がまるまる遺留分侵害額となります。
配偶者と次男は、それぞれ長男に対して、生前贈与された自社株式2億円と長男の遺言による相続させた預金2000万円につき遺留分減殺請求をすることができます。
まず、遺留分減殺請求は、贈与よりも先に遺贈に対して行います(民法1033条)。
その結果、配偶者と次男は長男に遺贈された預金2000万円に対してそれぞれ1000万円と3000万円の減殺請求をします。
配偶者と次男の遺留分侵害額の割合は1:3ですから、配偶者は預金500万円、次男は預金1500万円につき、遺留分減殺により、返還を求めることができます。
次に、配偶者の残りの遺留分侵害額500万円と次男の残りの遺留分侵害額1500万円を自社株式2億円分に対して減殺請求します。
これにより、自社株式は配偶者と長男と次男がそれぞれ、1:3:36(2.5%:7.5%:90%)の割合で分割して取得することになります。
このように、後継者が贈与を受けた自社株式が相続人間で分散してしまうことになります。
この問題について取るべき対策は、また項を改めて述べたいと思います。
以上のように、遺留分侵害があるケースでは、具体的な計算やどの財産に侵害請求していくのかについては、結構複雑な問題となります。
お問い合わせはこちらから
詳細につきましては、松井・森岡法律事務所まで(担当 松井)
電話 03-3261-7125
FAX 03-3261-7126
よく、「遺言を書くときには遺留分に気をつけましょう」とか、「遺留分減殺請求は1年間の期間制限があります」という話をご存知の方も多いと思います。
遺留分が相続人に残された最低限の権利であるという理解は、一般の方にも浸透しているようです。
「遺留分」は、最低限度の相続人間の公平を確保するために、兄弟姉妹及びその子以外の相続人に保障された最低限の相続の権利のことをいいます。
被相続人による財産の処分によって、遺留分を侵害された相続人は、遺留分の額以上の財産を取得した相続人に対して、財産の返還を請求することができます(民法1031条)。
これが「遺留分減殺請求権」です。
遺留分の額の算出方法としては、遺留分算定基礎財産の2分の1(相続人が直系尊属だけの場合は3分の1。)が、相続人全体にとっての遺留分の額です(民法1028条)。
これに個々の相続人の法定相続分を乗じることによって、個々の相続人が有する遺留分の額を算出します(民法第1044条で準用する同法第900条)。
遺留分算定の基礎財産の価額は、以下の数式で求めます。
【遺留分算定基礎財産】
=「被相続人が相続開始時(死亡時)に有していた財産」+「相続前1年以内の生前贈与」+「特別受益」-「負債」
遺留分減殺請求の実例を具体的なケースで見てみましょう。
[事例]
相続人:配偶者、子2人(長男・次男)
被相続人の相続開始時の財産:不動産5000万円、預金2000万円
後継者である長男に対し、死亡1年前に贈与:自社株式2億円
負債:3000万円
[遺留分算定基礎財産の価額]
不動産5000万円+預金2000万円+自社株式2億円-負債3000万円=2億4000万円
[相続人全体にとっての遺留分の額]
2億4000万円×1/2=1億2000万円
[個々の相続人の遺留分の額]
配偶者=1億2000万円×1/2=6000万円
子2人=1億2000万円×1/4=各3000万円
このケースで、被相続人が遺言で、配偶者に不動産5000万円を遺贈し、長男に預金全額2000万円を遺贈した場合を想定します。
配偶者は1000万円(遺留分額6000万円-実際の相続額5000万円)の遺留分侵害を受け、次男は指定された相続分がありませんから遺留分額3000万円がまるまる遺留分侵害額となります。
配偶者と次男は、それぞれ長男に対して、生前贈与された自社株式2億円と長男の遺言による相続させた預金2000万円につき遺留分減殺請求をすることができます。
まず、遺留分減殺請求は、贈与よりも先に遺贈に対して行います(民法1033条)。
その結果、配偶者と次男は長男に遺贈された預金2000万円に対してそれぞれ1000万円と3000万円の減殺請求をします。
配偶者と次男の遺留分侵害額の割合は1:3ですから、配偶者は預金500万円、次男は預金1500万円につき、遺留分減殺により、返還を求めることができます。
次に、配偶者の残りの遺留分侵害額500万円と次男の残りの遺留分侵害額1500万円を自社株式2億円分に対して減殺請求します。
これにより、自社株式は配偶者と長男と次男がそれぞれ、1:3:36(2.5%:7.5%:90%)の割合で分割して取得することになります。
このように、後継者が贈与を受けた自社株式が相続人間で分散してしまうことになります。
この問題について取るべき対策は、また項を改めて述べたいと思います。
以上のように、遺留分侵害があるケースでは、具体的な計算やどの財産に侵害請求していくのかについては、結構複雑な問題となります。
お問い合わせはこちらから
詳細につきましては、松井・森岡法律事務所まで(担当 松井)
電話 03-3261-7125
FAX 03-3261-7126
投稿者 松井・森岡法律事務所 | 記事URL
2016年3月 3日 木曜日
遺言書の有効と無効の境界(その1)
前回のブログでは、遺言書の効力を争う方法を書きました。
http://www.am-lawoffice.jp/blog/2016/02/post-48-1267235.html
今回のブログでは、具体的にどのあたりが自筆証書遺言の有効無効の分かれ目となるかを見ていきます。
仮に遺言書の効力が問題になった場合は、これらの事例を参考に分析、検討していくことになります。
1.自筆遺言証書における「自書」性
・遺言者が書いたが、他人により添え手がなされていたケース
→無効 (最高裁昭和62年10月8日判決)
・土地を特定するため遺言書に図面を添付していたケース
→有効 (札幌高裁平成14年4月26日判決)
・カーボン複写で遺言書を作成したケース
→有効 (最高裁平成5年10月19日判決)
2.自筆証書遺言における署名押印
・署名押印の押印が指印でなされたケース
→有効 (最高裁平成元年2月16日判決)
・封筒には押印があり、遺言書本体に署名はあるが押印が無い
→有効 (最高裁平成6年6月24日判決)
・封筒には署名押印があるが、遺言書本体には署名押印が無い
→無効 (東京高裁平成18年10月25日判決)
3.自筆証書遺言における「日付」
・作成日を「吉日」としたケース
→無効 (最高裁昭和54年5月31日判決)
・昭和48年を昭和28年と明らかな誤記がなされたケース
→有効 (最高裁昭和52年11月21日判決)
・バックデートによる日付
→無効 (東京高裁平成5年3月23日判決)
4.自筆遺言証書における「加除変更」
・「ユ」→「遺言」など明らかな誤記の訂正について署名捺印が無かったケース
→有効 (最高裁昭和56年12月18日判決)
・抹消部分に押印はあったが署名が無かったケース
→有効 (東京高裁昭和55年11月27日判決)
・赤いボールペンで遺言書全体に斜線を引いたケース
→遺言書を破棄したものとして無効 (最高裁平成27年11月20日判決)
上記の事例は、いずれも高裁や最高裁まで裁判が続いています。
遺言書が有効か無効で結論が大きく違いますから、それだけ争いが深刻になるということでしょう。
いずれも当該事案に対する判断なので、事実関係が微妙に違うと結論が変わりうるので注意が必要です。
また自筆証書遺言は検認が必要ですが、開封されていたかどうかでも結論に影響します。
いずれにせよ、有効性に疑義の無い遺言書をしっかり作成しておくにこしたことはないでしょう。
お問い合わせはこちらから
詳細につきましては、松井・森岡法律事務所まで(担当 松井)
電話 03-3261-7125
FAX 03-3261-7126
http://www.am-lawoffice.jp/blog/2016/02/post-48-1267235.html
今回のブログでは、具体的にどのあたりが自筆証書遺言の有効無効の分かれ目となるかを見ていきます。
仮に遺言書の効力が問題になった場合は、これらの事例を参考に分析、検討していくことになります。
1.自筆遺言証書における「自書」性
・遺言者が書いたが、他人により添え手がなされていたケース
→無効 (最高裁昭和62年10月8日判決)
・土地を特定するため遺言書に図面を添付していたケース
→有効 (札幌高裁平成14年4月26日判決)
・カーボン複写で遺言書を作成したケース
→有効 (最高裁平成5年10月19日判決)
2.自筆証書遺言における署名押印
・署名押印の押印が指印でなされたケース
→有効 (最高裁平成元年2月16日判決)
・封筒には押印があり、遺言書本体に署名はあるが押印が無い
→有効 (最高裁平成6年6月24日判決)
・封筒には署名押印があるが、遺言書本体には署名押印が無い
→無効 (東京高裁平成18年10月25日判決)
3.自筆証書遺言における「日付」
・作成日を「吉日」としたケース
→無効 (最高裁昭和54年5月31日判決)
・昭和48年を昭和28年と明らかな誤記がなされたケース
→有効 (最高裁昭和52年11月21日判決)
・バックデートによる日付
→無効 (東京高裁平成5年3月23日判決)
4.自筆遺言証書における「加除変更」
・「ユ」→「遺言」など明らかな誤記の訂正について署名捺印が無かったケース
→有効 (最高裁昭和56年12月18日判決)
・抹消部分に押印はあったが署名が無かったケース
→有効 (東京高裁昭和55年11月27日判決)
・赤いボールペンで遺言書全体に斜線を引いたケース
→遺言書を破棄したものとして無効 (最高裁平成27年11月20日判決)
上記の事例は、いずれも高裁や最高裁まで裁判が続いています。
遺言書が有効か無効で結論が大きく違いますから、それだけ争いが深刻になるということでしょう。
いずれも当該事案に対する判断なので、事実関係が微妙に違うと結論が変わりうるので注意が必要です。
また自筆証書遺言は検認が必要ですが、開封されていたかどうかでも結論に影響します。
いずれにせよ、有効性に疑義の無い遺言書をしっかり作成しておくにこしたことはないでしょう。
お問い合わせはこちらから
詳細につきましては、松井・森岡法律事務所まで(担当 松井)
電話 03-3261-7125
FAX 03-3261-7126
投稿者 松井・森岡法律事務所 | 記事URL